MOON SHOT

楓の初作品「MOON SHOT」が発売された。11曲が収録された今作は、5年間に及ぶ活動の集大成だ。

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学生時代から楓の才能は群を抜いていた。追随を許さないギターテクニック。個性の確立された歌声。観客を惹き込む構成力。ファンは多かった。にも関わらず楓は曲を作っていなかった。作品を世に出す以上、それは送り手側のベストで無ければならない。しかし最善の模索には膨大なエネルギーを要するし、その意欲は自分だけの武器を持つ確信がないと続かない。楓にはまだそれが無かった。

そんな彼に社会人になってから転機が訪れる。きっかけは路上ミュージシャン、ミナミシンタロウとの出逢いだった。その演奏に楓は衝撃を受ける。録音と多重再生をステージ上でリアルタイムに展開する機材、ループマシン。音が幾重にも重なり独特の世界が立ち上がる。これが1人での表現に限界を感じていた楓の創作意欲に火をつけた。抑圧していた欲求が爆発し、解放された悦びから「星の瞬き」が誕生。その後も作曲とライブの試行錯誤を数年間繰り返した。楓は多くの聴取の心を掴んだ。中には彼の歌で涙を流す人もいた。手応えのあった曲を、楓は地道に集めていった。

そして満を辞しての録音。luckeynote氏の力を借り1年かけて納得のいく作品を完成させた。タイトルは楓の好きなビジネス用語から取った。縛られていた頃の彼からすれば、この作品は正にアポロ計画のように壮大で胸躍るプロジェクトだった。困難も多かったが今、かつて見上げた月面に楓は立っている。地上から月を眺めた日々も悪くは無かったが、大人になった我々は月に立つことだってできる。歳を取るのも悪い事ではない。

最後になるが、楓にも花言葉があった。大切な思い出。そして美しい変化である。

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【1.Once in a blue moon】…楓が昔から何気なく弾いていたフレーズ。街の喧騒音を挿入するとこで日常と作品の架け橋になっている。終盤から星の瞬きのトラックが逆再生でフェードインし、2曲目のイントロに差し替わる。

【2.星の瞬き】…音楽を始めた歓びに突き動かされ、理想を思う存分に追求。ギターとシンセサイザーのループが宇宙空間の奥行を感じさせる。そこにアップダウンの激しい、躍動感のあるメロディを乗せた。初期から歌い続けている定番曲だがレコーディングは難航し、着手から1年後に完成した。

【3.PLUTO】…公転に影響を与え合う二重惑星と、離れても続く人間関係を重ねた曲。エレキギターをループさせ、ベースはluckeynote氏が演奏。バンドサウンドの編曲になっている。

【4.サーカス】…ループフレーズを発展させ作り上げた曲。ループマシンという格好の武器を手にした楓は、実験を繰り返していた。タイトル通り浮遊感、奇術感を感じさせるトラックが先に完成。無垢なボーカルはサーカスを観る子どものイメージ。

【5.夏の夜】…楓のライブでは中盤にこのようなシンプルな弾き語りが入る。夏の夜はループマシンを使った他の曲に劣らない反響があり、支持者が多かった。五音音階で作曲し日本らしさを出している。歌いやすさと聴きやすさを追求した結果、キーは高めに設定された。

【6.LANDSCAPE】…テンポよく爽やかな曲だが、当時は仕事で追い詰められ最悪の心理状態だったという。閉塞感で潰れそうなときこそ、広い世界を俯瞰しようという想いで作られた。「でも最後は自分の内側で答えが出る。だからこれは内省の歌だ」と楓は語る。レコーディングは秩父の合宿で日付が変わるまで行われた。

【7.フリダシ】…F起点のコード進行など複数の実験を行ったがテンポ良く聴きやすい。マンドリンに近いギターと、脳天気な音色の鍵盤をループさせた。作曲は2019年。完成後、偶然にも雨と台風が世間を騒がせた。「天気の子」公開の時期でもあり、因縁を感じさせる。

【8.NO7】…あえてテーマを設定することで普段作らない振り切った曲が完成。自らに課したのは「Final Fantasy 7」の主題歌だった。楓の好きなバンドのオマージュでもあり、アルバムの中で個性を放っている。

【9.夕焼けメモリー】…風通しの良い曲展開。楓は昔から夕焼けに惹かれ、今でも日の入りには足を止めて空を眺める。オルガンを挿入することで雄大なアレンジに仕上がった。コードを追うハモリが楓の好みで、この曲はストイックにそれを貫いている。

【10.STAY】…肯定感に溢れた歌詞と突き抜けるボーカルが心地いい。前向きに振り切った曲でアルバムのフィナーレに繋げていく。ライブで受ける評価が高かったため録音は早い段階から着手。レコーディングの足掛かりになった。ピアノをループさせ、最後は機材によってトラックごと転調させている。

【11.夢の墓標】…ライブでは弾き語りで演奏されるがCDではluckeynote氏のミックスで聴き応えのあるバンドサウンドになった。一見ラブソングだがタイトルで夢が主題と気付く。楓は一時期音楽を辞めそうになったが、自分への応援歌としてこの曲を作った。苦労も失意もある。それでも夢は野垂れ死ぬまで持ち続けなければならない。

2020.3.13 解説・mugibtk

 

Trailer:luckeynote氏作成

https://m.youtube.com/watch?v=sPQcwuYVM4k&feature=youtu.be