1_埠頭を渡る風

横浜の島忠が改装したので行ってみた。

売場面積2500坪2層。駐車場収容台数1446台。本牧埠頭A突堤の根元に位置し、東京湾岸道路、首都高湾岸線でのアクセスが良い。港の見える丘公園徒歩10分。何より横浜市中区、山下町というバブル立地。「え⁉︎私の名前をご存知無い⁇」みたいな奥様が多数生息している土地だ。賃料も異次元だが、売上も高い。1階がホームセンターと食品。2階に家具インテリア。そのうち2階を丸ごと大改装である。ネットニュースもなかなか好意的に取り上げている。TSUTAYAとコラボし、家具が買える書店、furniture&book caféとしてリニューアル。家具でコトを売る店。体験型の暮らし。集客力・収益力のある新業態。云々。景気のいい惹句が並んでいる。実際、代官山蔦屋や湘南T-SITEなど、CCCが展開する店舗は魅力的なものが多い。僕は片道70分かけて二子玉川蔦屋家電に通っている。30分圏内に蔦屋家具が出来るなら、個人的に大変嬉しい。島忠の高級ソファで珈琲を飲みつつ読書できれば最高だ。休日の度に行くだろう。

 

結論から言うと、大変がっかりしました。行きましたが。到底、通いたいと思える店では無い。期待との落差に、怒りすら覚えます。まず書店ですが、その辺の古い、街の本屋を間延びさせただけ。「君たちはどう生きるか -漫画版-」のフェイス(陳列行数)を2から4に増やしたに過ぎない。というか今更「君たちは~」を入口に大量陳列する惰性。安直さ。思慮の浅さ。入口から失望させてくれる。ベストセラーの大量平積みに始まり、連なるは雑誌、料理ムック本、まっぷる伊勢志摩。うんこ漢字ドリル。大量の漫画(ワンピース、転生スライム、ちびまる子ちゃんワンパンマン)。奥に文庫の陳列棚(出版社&作者あいうえお順)。規模がデカイだけで、いやデカイからこそ、欠伸が出る程凡庸な本屋ですよ。無理に拡大した、画素の荒いウインドウズの壁紙でも見ているかのようですね。出会いも提案も発見も無い。血が通ってない。照明を暖色のスポットにしたところで私は騙されませんよ。また、僕は珈琲を片手に本を選び、書棚の傍に座って読書できると思ってたんだけど、ここはカフェ・レストランが隔離されている。書店内に椅子は無い。客は事前に本を選び脇に抱え、隔離されたパーテーションを乗り越え、「あ、1名」とか言って席に着き、給仕に発注を飛ばさないといけない。あのですね、書店の傍らでわざわざ腰を据えてハンバーグなんか食いたくないんですよ。僕は書店に行くと自律神経が緩んでウンコをしたくなるんです。その隣でハンバーグとは…いやはや、たいした豪傑ですわ。

次に展開される家具インテリアスペースも、意図はわかりますが、外してると言わざるを得ない。イイカンジな空間がある。それは良い。問題はこのテーブルに置かれたシャレオなマグカップを、そのまま掴んで会計して良いかだ。たぶん駄目だろう。あ、これ展示なんで…と誰も得しないクソなやり取りが展開される。でも近くに在庫がある様には見えない。値段もマグをひっくり返さないと見えない。そして高い。店員は見つからない。マグひとつ買うにもこのストレス。売る気があるのだろうか。見せて満足なのだろうか。余程の絶倫でない限り、この買い辛さは突破出来ない。ショッピングカートが無い。買い物カゴすら無い。両手に持てるインテリア小物はせいぜい3、4個だ。ちょっとしか買えない。これで売上が取れるのか。このブルジョワ立地のメガンテな賃料を払うために、一体どれだけの入客数、買上率、買上品目数、客単価を想定しているのだろうか。周りを見ると僕含め客達は虚ろな顔で、店内をうろつき、雑貨を手に取っては戻したり、家具をただ眺めたりしている。「暇人」という言葉が似合うシルエットだ。誰も商品をレジに持参しない。買わない。会計しなーい。足が疲れてきた。通路の形状、従業員配置、陳列意図、レジ効率、坪売、防災安全対策…一度気になるとあらゆる箇所が目につき始める。勘弁して欲しい。今日は休日なのだ。頭が痛くなってきたから2階フロアを離れた。1階は安定の島忠ホームズ。蛍光灯で照らされた明るい店内。豊富な品揃えと大量の在庫。ラミネートされたダサいPOP。巨大なショッピングカートと常時5台開局の流しレジ。ホチキスと裁断機を買って領収書をゲットした。

 

期待してただけに残念である。全体としても、書店、飲食店、家具店が実質独立しているから相乗効果が無い。furniture&book caféというより、只のショッピングモールだ。複数社が絡んだ改装。諸々大人の事情があり、数多の妥協を経て完成したものと推察する。個人的な意見だが、このままではヤバイ。第一印象で騙せても、程無く飽きられる。今後、再投資するか、撤退するか、選択を迫られるだろう。どちらに転んでも、僕にとっては悪くない。でも多額のコストを払った実験店舗。簡単に止められない筈だ。責任者にも家族が有る。試行錯誤していく筈である。まだ始まったばかり。折角ならイイカンジの店にして頂きたい。僕含め、横浜市民の豊かな休日のために。アイフォーンで自社株が急落していることを確認し、あいみょんを聴きながら家に帰った。