愛地獄2

初めて告白した女の子は銀杏BOYZのファンだった。映像作品「僕たちは世界を変えることができない」を吉祥寺の映画館へ2人で見に行き、僕は彼女を夢中にさせる銀杏BOYZってヤツに嫉妬しながら映画をみた。

僕の恋敵は、スクリーンの中で肛門の匂いを嗅ぎあったり夕焼けを見て泣いたりしていた。見てるうちに、こいつらが敵なのか味方なのか訳が分からなくなった。畜生。こいつらが好きなその子を、ますます好きになった。そのまま半狂乱で告白し、玉砕した。帰ってアコースティックギターを掴み外へ飛び出し、誰にも見つからない高架下で一人「人間」を歌った。「あなたが幸せになったとき、こんな歌忘れてくれ。」映画館で聞いた峯田の言葉が忘れられなくなった。

 

数年後、生まれて初めてセックスした人は、一緒に銀杏BOYZのライブに行った女の子だった。ライブ中、峯田の吐いたミネラルウォーターが頬にかかり、僕は顔射されたような気分になった。興奮が醒めやらぬまま、彼女を家に連れ帰り、リリースされたばかりの「僕たちは世界を変えることができない」のDVDを開封してふたりで観た。そのまま僕は童貞を捨てた。精液のたまったコンドームとDVDを包んでいたフィルムがゴミ箱のなかで絡み合った。

 

銀杏BOYZの9年ぶりのアルバムが発売された今、僕は会社員になり結婚している。妻のお腹には子どもがいる。妻はかつての2人と違って、銀杏BOYZが好きではない。そもそもロックにあまり興味がない。僕もいつしか音楽を熱心に聴かなくなり、それなりの毎日を生きていた。驚くべきことに、あれほど僕を救ってくれた「人間」という曲も忘れてしまっていた。これが「幸せになった」ということなのだろうか。

 

でも僕は知っている。そいつはずっと、僕の中に隠れているだけだ。器用に生きてるふりしたって、僕はあのころから、これっぽっちも変わっていない。性欲と自尊心と焦燥感。恋と退屈とロックンロール。自分が大好きで、同時に大嫌いだった。毎日が退屈で、同時に新鮮だった。

 

銀杏BOYZの音楽がなかったら、僕はあの心地いい内省の地獄から抜け出せなかったと思う。でも同時に、あの心地いい地獄に引き戻してくれるのもまた、銀杏BOYZの音楽です。これからも自分の信じた音楽を貫いていってください。応援してます。

 

名前:ライ麦

性別:男

年齢:26才

職業:会社員

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